感想/高樹のぶ子著『光抱く友よ』(芥川賞受賞作)

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高樹のぶ子『光抱く友よ』

著者が芥川賞を受賞した1980年代半ば、“陰のある美しい中年女性”という雰囲気のポートレートに惹かれ、ずっと気になる作家ではあった。数年前、映画化された『透光の樹』は観たが、小説を読むのは初めてだ。現在68歳とは! まぁ、当時10代の私が50歳近くの中年になってしまったわけで、著者が老婦人になるのは当然のこと。

この文庫本には、芥川賞受賞作の『光抱く友よ』のほか、『揺れる髪』『春まだ浅く』の短編三つが収められている。女友達同士、母と娘、恋人同士とシチュエーションは違えども、モラルと情念の狭間に揺れる女心について、女性作家しか表現できない生々しさで描かれている。所々に散りばめられた、ハッとさせられるダイレクトな表現が印象的だった。

例えば『光抱く友へ』の主人公・涼子宅に遊びに来た友人が、家を後にするシーン。

胸の丸みが白い蛍光灯の電光を押し分けて、前方へせり出した。卓司も涼子も、棒立ちになってそれを受け止めた。わずかな間を置いて卓司は慌ただしくまばたきをしながら会釈を返した。

また、「春まだ浅く」の主人公の女友達の発言。

「体の奥の、ほんのわずかな暗闇よね、私が守ろうとしてるのは、容子はそのちょっと手前でがんばってる。その違いはあるけど……私が言いたいのはさあ、彼女が自分にとって最後の一線だと思っているものが、ちっとも最後じゃないってことなのよ。一線なんて、もっと奥の、とことん奥にだって引けるってこと。どこにだって引けるし、みんなそうしてるのよ」

ところが、主人公の女性に比べると、脇役の男性の存在は扁平な印象を拭えない。『光抱く友よ』の主人公が好意を抱く男性教師は、(昭和の時代にあって留学経験を持つ)恵まれた家庭環境に育ってせいで想像力が欠如している、『揺れる髪』の商社マンの夫は典型的なモーレツサラリーマンで、「亭主の匂いを忘れるな」と言って妻の顔を自分の胸に押し付けたりする。

本来、男性にも繊細な心模様があるはずだけれど、この三つの小説で描かれている男性は扁平なキャラクターだった。「男性=単純、女性=複雑」と設定することによって、女性の心理を際立たせてはいるとも思えるが、男性の私からすると男心もそのような単純なものではないと主張したくなる。

ただ、昭和の「女子らしさ」「妻らしさ」「母らしさ」というモラルに苦しむ女性たちの葛藤は、今の時代だからこそ妙にドキドキするものがある。次は、著者の最近の小説を読んでみたいと思った。


光抱く友よ (新潮文庫)
著者/高樹のぶ子  発行/新潮社

大学教授を父親に持つ引っ込み思案の優等生・相馬涼子。アル中の母親をかかえ、早熟で、すでに女の倦怠感すら漂わせる不良少女・松尾勝美。17歳の2人の女子高生の出会いと別れを通して、初めて人生の「闇」に触れた少女の揺れ動く心を清冽に描く芥川賞受賞作。他に、母と娘の間に新しい信頼関係が育まれていく様を、娘の長すぎる髪を切るまでの日々のスケッチで綴る「揺れる髪」等2編。(Amazonより)