感想/町田康のハチャメチャ小説『きれぎれ』

2023年4月15日

町田康『きれぎれ』

きれぎれ(文春文庫)
著者/町田康
発行/文藝春秋

第123回(2000年度上半期)芥川賞受賞作。大阪生まれ、パンク歌手・詩人・俳優でもある町田康によるハチャメチャ小説。

小金持ちのぐうたら息子で絵描きの主人公の趣味はランパブ通い。浪費家で夢見がち、働くことが大嫌い。母親のお金をせしめながら、思いつきでランパブ嬢を妻にして、怠惰な生活を続けるが、母の死により家業は清算。遺産も入らずたちまちお金に窮して、絵の具を買う金もなく、軽蔑する友人に借金を申し込んだが‥‥というあらすじ。

気持ちが悪いような、爽快なような、何とも言えない読後感だったので、選考委員の選評を見てみた。以下のサイトを参考にした。

芥川賞-選評の概要-第123回

池澤夏樹氏の選評が、私の読後感にリンクした。

ここまで密度の高い、リズミックかつ音楽的な、日本語の言い回しと過去の多くの文学作品の谺に満ちた、諧謔的な、朗読にふさわしい、文章を書けるというのは嘆賞すべき才能である。

才能は感じる。ただ読後感が気持よいかどうかは別。例えば、音楽ならクラシックファンがマキシマムザホルモンのライブに出かけて、60分間の「場」に耐えられるか。日本音楽コンクールの作曲賞にハードコアパンクな楽曲が受賞したけれど、どうなのか。そんな疑問符だ。

ただ、相当意見が割れた選考委員のいずれの選評にも納得できる不思議な作品であることには間違いない。

肯定派/石原慎太郎

今日の社会の様態を表象するような作品がそろそろ現れていい頃と思っていた。その意味で町田氏の受賞はきわめて妥当といえる。(中略)最初に目にした「くっすん大黒」に私が覚えた違和感と共感半々の印象は決して的はずれのものではなかった。(中略)それぞれが不気味でおどろおどろしいシークエンスの映画のワイプやオーバラップに似た繋ぎ方は、時間や人間関係を無視し総じて悪夢に似た強いどろどろしたイメイジを造りだし、その技法は未曾有のもので時代の情感を伝えてくる。

否定派/河野多恵子

「きれぎれ」くらい賛否がまっぷたつに分かれた候補作品も珍しいのではと思われる。(中略)私は終始否定に廻って、受賞を強く推す委員の意見に耳を傾けたが、ついに納得することはできなかった。(中略)読み初めてから読み終わるまで、ただただ不快感だけがせりあがってきて、途中で投げ捨てたくなる衝動と戦わなければならなかった。

否定派/村上龍

魅力を感じなかった。(中略)『きれぎれ』の文体は、作者の「ちょっとした工夫」「ちょっとした思いつき」のレベルにとどまっている。そういったレベルの文体のアレンジは文脈の揺らぎを生むことがない。


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