岩手旅行- 遠野物語で幾度も登場する笛吹峠へ

2023年4月15日

せっかくレンタカーを借りたのだから、車でしか行けそうにない場所へと思って、笛吹峠を目指した。

遠野盆地から海岸部の釜石に抜ける峠の一つで、六角牛山と権現山の鞍部にある。

『遠野物語』と『遠野物語拾遺』では何度も登場する地名で、その涼やかな語感からぜひ訪れたいと思っていた。下は『遠野物語』で印象的な箇所。

遠野物語
五 遠野郷より海岸の田ノ浜、吉利吉里などへ越ゆるには、昔より笛吹峠という山路あり。山口村より六角牛の方へ入り路のりも近かりしかど、近年この峠を越ゆる者、山中にて必ず山男山女に出逢うより、誰もみな怖ろしがりて次第に往来も稀になりしかば、ついに別の路を境木峠という方に開き、和山を馬次場として今は此方ばかりを越ゆるようになれり。二里以上の迂路なり。
・山口は六角牛に登る山口なれば村の名となれるなり。

『遠野物語拾遺』では最初にこの地名が登場する。

遠野物語拾遺
一 昔三人の美しい姉妹があった。橋野の古里という処に住んでいた。後にその一番の姉は笛吹峠へ、二番目は和山峠へ、末の妹は太田林へ、それぞれ飛んで行って、そこの観音様になったそうな。

二 昔青笹村に一人の少年があって継子であった。馬放しにその子をやって、四方から火をつけて焼き殺してしまった。その子は常々笛を愛していたが、この火の中で笛を吹きつつ死んだ処が、今の笛吹峠であるという。

百四十五 遠野町の相住某という人は、ある時笛吹峠で夜路に迷って、夜半になるまで山中を迷い歩いたが、道に出ることができなかった。いよいよ最後だと想い、小高い岩の上に登って総領から始めて順次にわが子の名を呼んで行った。そうしていちばん可愛がっていた未子の上に及んだ時のことであったろうというが、家で熟睡をしていたその子は、自分の軀おん上へ父親が足の方から上がって来て、胸のあたりを両手で強く押しつけて、自分の名を呼んだように思って、驚いて目が覚めた。その晩はもう胸騒ぎがして眠られないので、父親の身の上を案じて夜を明かした。翌日父親は馬の鈴の音をたよりにようやく道に出ることができ、人に救われて無事に家に帰って来た。そうして昨夜の出来事を互いに語り合ったが、父子の話はまったく符節を合わせるようであったから、シルマシとはこのことであろうと人々は話し合ったという。

遠野市街から釜石に抜ける県道35号・通称「大槌街道」を車で東へ。途中、六角牛山のふもとにある六角牛神社(下)あたりまではなだらかな上り道だった。

六角牛神社(遠野)

六角牛神社で少し休憩した際、時計を見るとすでに夕方5時半を超えていた。小雨も降っているので、夏とはいえ徐々に付近が暗くなってきた。

夜の笛吹峠は『遠野物語』にもあるように、妖怪変化が出てきそうなイメージがある。不安になりつつも行程の半分まで来たことだし、気を取り直して峠に向かった。

ところが、ここからが大変な山道だった。道は細くなるし、ヘアピンカーブは連続するし、道路のすぐそばは崖になっているし。ただ、対向車線をヘッドライトを点けて通過する車がぽつぽつあったので、山道に取り残されそうな不安はなかった。

六角牛神社から30分弱で笛吹峠付近に到着した。

笛吹峠(遠野)

標高は867メートル。車を道路の脇に駐めて、ドアを開けると冷気が車の中に入り込んだ。車を出て峠付近を歩く。周囲は霧雨に覆われている。吐く息が白くなった。

峠を境に東側が釜石市、西側が遠野市となっている。上の写真は車を駐めた場所、峠までは防寒着を着て少し歩いた。下の写真が釜石市と遠野市の境界線、難航した工事だったのだろう、県道の整備について書かれた石碑があった。

笛吹峠(遠野)

急速に付近が暗くなってきた。標高差800メートル、ヘアピンカーブの急勾配を、慣れない車で下るのはこわい。10分ほどで峠を後にした。


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Posted by Asanao