感想/藤野可織の芥川賞小説『爪と目』

藤野可織『爪と目』

『爪と目』については、Amazonのレビューや書評サイトで「ホラー小説」「怖い物語」といった感想を断片的に目にしていた。そのため、単行本を買って数ヶ月、読み始めるのをちゅうちょしていた。心に余裕があるときに読もう、と。

先週、ようやく単行本を手に取り、グッと引き込まれて1日で読み終えた(一緒に収録されている『しょう子さんが忘れていること』『ちびっこ広場』も含めると2日で読了)。

まず、版元の紹介。

あるとき、母が死んだ。そして父は、あなたに再婚を申し出た。あなたはコンタクトレンズで目に傷をつくり訪れた眼科で父と出会ったのだ。わたしはあなたの目をこじあけて――三歳児の「わたし」が、父、喪った母、父の再婚相手をとりまく不穏な関係を語る。母はなぜ死に、継母はどういった運命を辿るのか……。独自の視点へのアプローチで、読み手を戦慄させるホラー。芥川賞受賞作。

新潮社『爪と目』紹介ページ

この小説のユニークな点は、主人公を「あなた」という二人称に設定している点だ。第三者である幼い3歳の女子児童が、主人公である父親の愛人(現在は母親)を冷徹に観察する目で物語は進む。最初から最後までブレずにこの「仕組み」が採られており、読者は主人公のストーカーの視点を疑似体験することになる。

ただその一方で、最初はお互い他人であった年齢も立場も違う娘と愛人の二人が、一緒に一つ屋根で暮らす中で徐々に近づいていき、最終ページので一つに重なり合う。スパークするその瞬間の“ひとこと”が圧倒的だった。

また、一見、刹那的な生き方をしている愛人が、娘の父親と再婚し、物語の後半で前妻のブログを発見してからの行動が面白かった。彼女が前妻の“センスのいい”趣味・嗜好・暮らしぶりをひたすらトレースする。結果、前妻の生き様を真似てはみたものの、実は前妻の暮らしも記号のような刹那的なものであることを種明かしのように、読者に提示される。

スリリングな作品だった。


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