山梨県立美術館でミレー『種まく人』をじっくり。見どころを解説

前川國男設計の建物が与える美術館体験

1泊2日で山梨県のミュージアム2館と、霊山・身延山を旅した。その旅の記録を、まずはミュージアム1つ目、「ミレーの美術館」として知られる山梨県立美術館から。

関東・甲信越の地方美術館はちょくちょく出かけているが、山梨県立美術館は初めての訪問。川越からクルマで3時間、朝10時に美術館のある芸術の森公園に到着した。

駐車場から美術館に向かい、建物を前にして「お!」と目を見張ったのが機能的かつ合理的な外観。建築家・前川國男氏の設計だ。

東京文化会館、東京都美術館、国立西洋美術館新館、埼玉会館、埼玉県立歴史と民俗の博物館、新潟市美術館…改めて東日本の公共文化施設に前川氏設計の建物が多いことに驚かされる。日本人の美術館体験において、氏の設計による空間が少なからぬ影響を与えているはず。

山梨県立美術館
前川國男設計、1978年開館

建物を外から見ると、緑の中に引き立つ20世紀のモダニズム建築。一方、建物の中に入ると、展示室の外では、緑豊かな芸術の森公園と周囲の山並みが広い窓から目に入る。新緑が萌える季節、自然を窓枠のフレームで切り取ったような風景が印象的だった。

中でも本館と南館をつなぐ2階廊下の突き当りは「富士見の窓」となっており、富士山を描いた風景画のようなカンバスとなっている。

山梨県立美術館
2階の「ミレー館」入口前
山梨県立美術館
富士見の窓

ミレーとバルビゾン派の絵画を堪能

山梨県立美術館はジャン=フランソワ・ミレー、ギュスターヴ・クールベ、ジュール・デュプレなどバルビゾン派画家のコレクションで知られる。

山梨県は1977年にミレーの『種まく人』(1億7000万円)と『夕暮れに羊を連れ帰る羊飼い』(7500万円)をオークションでで落札し、1978年、これら作品を目玉として美術館が開館した。『種まく人』は、まさに美術館のアイデンティティともいえる作品だ。

ミレー「種まく人」
ミレー「種まく人」入館チケットより

その後もバルビゾン派の画家の作品を一貫して収集。地方美術館の中でも際立った存在感を放っている。山梨県立美術館を旅の第一目的地とする美術ファンは多い。

2023年春季(2023年3月14日〜6月25日)は「ジャン=フランソワ・ミレー 生涯と作品」として、画家として出発した時期から、農村の労働と暮らしを描いた時期、人と自然を描いた時期に分けて作品を展示するほか、珍しい注文制作の展示もあった。

東京都心の美術館と違って、とにかく入館者が少ない。『種をまく人』『落ち穂拾い、夏』『夕暮れに羊を連れ帰る羊飼い』、いずれも一人じっくりと作品に相対することができた。

ミレー以外の画家の作品では、ジュール・ブルトンの『』、ジュリアン・デュプレ『牧草の取り入れ』、コンスタン・トロワイヨン『市日』に、足を止めて見入った。

山梨県立美術館
美術館の外にあるアンリ・シャピュ『ミレーとルソーの記念碑』

地元ゆかりの作家・作品でその地を知る

旅行に出かけた際、なるべくその地の美術館、中でも県立美術館に立ち寄るようにしている。

県立美術館は、たいていその地にゆかりのある作家による風景画・人物画を常設展示している。これは、美術作家の視点・キュレーターの視点による土地と暮らしの紹介となっていて、私とっては、旅行ガイドブックや観光案内所よりも有益な旅行情報だ。

この日も、ちょうど「共に、在る。-自然の営み・人の暮らし-」というテーマで、コレクションが展示されていた。古屋正壽『移牧』『樹下遊牧』、桑原福保『葡萄みのる』など、甲州の自然と暮らしを作品を通じて垣間見ることができた。

ザ・ビッグアップル No.45(山梨県立美術館)
甲府出身の作家・佐藤正明『ザ・ビッグアップルNo.45』

『種まく人』のミュージアムグッズとメニューがユニーク

山梨県立美術館には朝10時すぎに着いて、1時間半ほど館内の作品を鑑賞した。少し早めの昼食を取ろうと、1階のレストラン『Art Archives (アート・アーカイブス)』に入った。片側が全面ガラス張りで開放的な雰囲気。正午前なので客は私ひとりだった。

メニューを開くとインパクトのある写真が目に入った。「ミレーの種をまく人 アートドリア」とある。迷わずこのメニューをオーダーした。ココアパウダーで『種まく人』が描かれている。この絵をきれいに描くために、スタッフは練習を重ねるのだろうか?

このユニークなドリア、セルフサービスのサラダとスープが付いて1,200円だった。なお、“チーズのカンバス”の下はケチャップライスで、味そのものはいたって普通だった。

ミレー「種まく人」
ミレーの種をまく人 アートドリア
山梨県立美術館レストラン
『Art Archives』、外でも食事可能

ミュージアムショップにも、『種まく人』の美術館オリジナルグッズがいろいろあった。

定番のポストカードやクリアファイルのほかに、トートバッグやネクタイ、果てはオリジナルコーヒーまであった。

トートバッグがセンスよく、思わず買ってしまいそうになったが、旅行翌日に予定している登山の荷物になるので諦めた。

ミレー「種まく人」トートバッグ
『種まく人』トートバッグ(2,500円)
『種まく人』ブレンドコーヒー
『種まく人』ブレンドコーヒー(1,400円)

山梨県立美術館公式サイト
Googleマップで山梨県立美術館の場所を確認


2023年春 甲府・身延山旅行の記録
【1】山梨県立美術館でミレー『種まく人』をじっくり。見どころを解説
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