岩手旅行- 遠野の続石、重力がズレたような不思議な光景

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千葉家の豪壮な曲り家を後にして、次は「続石(つづきいし)」を訪ねることにした。国道396号・遠野街道を遠野市街方面へ5分ほど。観光客向けの小さな駐車場があったのでクルマを駐めた。

そこから細い山道を登る。小雨が降っており、滑りやすくなっている。ただ、夏山独特の緑のにおいが湿った空気に漂い、思わず深呼吸をしてしまう。

続石への山道(遠野)
10数分ほど登って、続石に到着した。

続石は、2つの石の上に、幅7メートル、奥行き5メートル、厚さ2メートルの巨大な石が、笠石として片方にずれるように載っている。ここだけ重力がずれてしまったような不思議な光景。SF映画のワンシーンのようだ。

続石(遠野)
『遠野物語拾遺』には下のようなくだりがある。

遠野物語拾遺 11
 綾織村山口の続石は、この頃学者のいうドルメンというものによく似ている。二つ並んだ六尺ばかりの台石の上に、幅が一間半、長さ五間もある大石が横に乗せられ、その下を鳥居のように人が通り抜けていくことができる。武蔵坊弁慶の作ったものであるという。昔弁慶がこの仕事をするために、いったんこの笠石を持って来て、今の泣石という別の大岩の上に乗せた。そうすると残念だといって、一夜じゅう泣き明かした。弁慶はそんなら他の石を台にしようと、再びその石に足を掛けて持ち運んで、今の台石の上に置いた。それゆえに続石の笠石には、弁慶の足形の窪みがある。泣石という名もその時からついた。今でも涙のように雫を垂らして、続石の脇に立っている。

ドルメンとは支石墓(しせきぼ)のこと。新石器時代から初期金属器時代にかけて、世界各地で見られる巨石墓の一種。基礎となる支石を数個、埋葬地を囲うように並べ、その上に巨大な天井石を載せたもの。確かにドルメンに見える。しかし、このような山の中に人工的に作ることは可能なのか? それとも、大昔、この辺りは平地で、そこに支石墓が作られ、天変地異により隆起したのだろうか?

続石を支える2つの石の「鳥居」をくぐろうとしたら、なんと、実際に笠石を支えているのは2つではなく、1つのようだ(左下写真)。一方、泣石は斜面を転げ落ちた巨石が、杉の巨木に阻まれたように見えた(右下写真)。

続石・泣石(遠野)
一方、『遠野物語』の本編には、次のような説話がある。

遠野物語 91
 遠野の町に山々の事に明るき人あり。もとは南部男爵家の鷹匠なり。町の人綽名して鳥御前という。早池峯、六角牛の木や石や、すべてその形状と在処ありどころとを知れり。年取りてのち茸採りにとて一人の連とともに出でたり。この連の男というは水練の名人にて、藁と槌とを持ちて水の中に入り、草鞋を作りて出てくるという評判の人なり。さて遠野の町と猿ヶ石川を隔つる向山という山より、綾織村の続石とて珍しき岩のある所の少し上の山に入り、両人別れ別れになり、鳥御前一人はまた少し山を登りしに、あたかも秋の空の日影、西の山の端より四五間ばかりなる時刻なり。ふと大なる岩の陰に赭き顔の男と女とが立ちて何か話をして居るに出逢いたり。彼らは鳥御前の近づくを見て、手を拡げて押し戻すようなる手つきをなし制止したれども、それにも構わず行きたるに女は男の胸に縋るようにしたり。事のさまより真の人間にてはあるまじと思いながら、鳥御前はひょうきんな人なれば戯れて遣らんとて腰なる切刃を抜き、打ちかかるようにしたれば、その色赭き男は足を挙げて蹴りたるかと思いしが、たちまちに前後を知らず。連なる男はこれを探しまわりて谷底に気絶してあるを見つけ、介抱して家に帰りたれば、鳥御前は今日の一部始終を話し、かかる事は今までに更になきことなり。おのれはこのために死ぬかも知れず、ほかの者には誰にもいうなと語り、三日ほどの間病みて身まかりたり。家の者あまりにその死にようの不思議なればとて、山臥のケンコウ院というに相談せしに、その答えには、山の神たちの遊べるところを邪魔したる故、その祟をうけて死したるなりといえり。この人は伊能先生なども知合なりき。今より十余年前の事なり。

20分ばかり滞在したが、私以外、観光客も地元の住民にも遭遇しなかった。赭(あか)き顔の男と女がひょっこり現れても不思議ではない空間だ。「山の神たちの遊び場」か。その通りかも。


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